名簿に載っているだけでは誰も来ない

災害時の避難支援、相談、避難所への移動を描いた個別避難計画のイメージイラスト

9月は防災月間らしいと知って、家の非常用の水の賞味期限を見たら去年で切れていたちゃんさとです。
♯防災の話をする資格なし

さて。

本日は「名簿に載っているだけでは誰も来ない」ってテーマです。

ちょっと重ための話なんですけど、大事なやつなので付き合ってください。

先日、ある会議でこんな質問が出たんですよ。

「最近、雨もすごいですけど…防災って、どうなってますか??」

ご本人はそこまでピンときていない様子だったんですけど、関係者の方が「いろいろ整えなきゃいけないですよね」と、疑問を投げかけてくれたんですね。

で、別の利用者さんのご家族からは、こんな話も。

「災害の時、うちの子は誰か助けに来てくれるんですか??」

これ…即答できますか??

悲しいかな、ボクは即答できなかったんです。

「ボクが行きます」なんて言えたらカッコいいんですけど、その時ボク自身が被災している可能性もあるわけで。そんなこと軽々しくは言えない。

「名簿がありますので」とか「避難所は○○小学校です」とか、それっぽいことは言えるんですよ。

でも「誰が、どうやって」までは答えられなかった。

もっと正直に言うと、担当している方全員の避難先をすぐ言えるかって言ったら…言えないんですよね。

対人援助職を19年やっていてこれです。
♯自分で言っていて胃が痛い

普段の支援って、朝起きられるか、薬が飲めるか、仕事に行けるか。日常をずっと見ているんですよね。

だから「災害の時の準備」は、正直、後回しになっちゃう。

でもこの5年くらいで、「誰が、どうやって」をちゃんと決めておく制度が動き始めているんです。

それが、今日お話しする個別避難計画。

ここが、今日のテーマです。

災害時の避難について本人・家族・支援者で話し合う様子のイラスト
目次

制度は2階建て

支援を必要とする人の名簿と地域の支援を家に見立てたイラスト

結論です:名簿に載っている=誰かが来てくれる、ではありません。

まず、この制度は2階建てになっています。

1階が「避難行動要支援者名簿」。

名前が長い(笑)。

逃げることが難しい方…障害のある方、高齢の方、要介護の方を、市町村がリストにしたものです。

2013年から市町村の義務になっていて、今は全国すべての市町村で作成済みです。

2階が「個別避難計画」。

名簿に載っている方ひとりひとりについて、「誰が声をかけて、どこへ逃げるか」をあらかじめ決めておく計画です。

こっちは2021年の法改正で、市町村の努力義務になりました。

きっかけは、2019年の台風19号です。

亡くなった方の多くが、高齢者や障害のある方だった。

名簿はあったのに、助けに行けなかった。その反省から生まれた制度なんですね。

避難行動要支援者名簿を1階、個別避難計画を2階に見立てた制度の2階建て図解

名簿には「誰が行くか」が書いていない

大雨の中で支援が必要な人の家を確認する消防隊員と地域の支援者のイラスト

ここからが、今日いちばん伝えたい落とし穴です。

名簿は「支援が必要な人のリスト」であって、誰が行くかは書いていないんですよ。

しかも、名簿の情報を普段から消防団や民生委員さん、地域の人に渡しておくには、本人の同意が必要です。

同意して情報共有されている方は、名簿に載っている人の約4割と言われています。

つまり残りの6割は、名簿には載っているけれど、地域の誰もその人のことを知らない状態で災害を迎える可能性がある。

計画という言葉はあるし、名簿にも載っている。

でも「じゃあ当日どうするの」という実務のところまでが、なかなか出てこないんですよね。

今どこまで進んでいるのか

今年6月に内閣府が出した最新の調査(令和8年3月時点)を見てみます。

まず、いいニュースから。

個別避難計画をまったく作っていない市町村は、全国で50。全体の3%を切りました。

ほぼすべての自治体が動き出した、ということですね。

でも、ここからが正直な現状です。

  • 名簿に載っている人の2割以下しか計画ができていない市町村…52.8%(半分以上)
  • 8割以上できている市町村…14.5%

昨年1年間で新しく計画ができた方は約18万人。

多く聞こえるんですけど、障害のある方は全国で1,000万人を超えると言われていて、名簿に載っている方はもっとずっと多いはずなんですよね。

着手はした。でも、行き渡っていない。

これが、いまの日本の現在地です。

市町村が勝手に作るものじゃない

階段・薬・避難先などを確認しながら個別避難計画について話し合う本人・家族・支援者のイラスト

「個別避難計画って、市町村が作るものでしょ??」

そう思っている支援者の方、けっこう多いと思うんです。ボクも半分そう思っていました。

でも実は、ボクらの仕事にがっつりつながっているんですよね。

内閣府の資料にも、「本人のことをよく知るケアマネジャーや福祉の専門職の協力を得て」と、はっきり書かれています。

考えてみたら当たり前で。

その人が階段を降りられるのか、パニックになりやすいのか、薬を何日分持ち出す必要があるのか。

いちばん知っているのは市役所じゃなくて、毎月会っているボクらじゃないですか。

相談支援専門員やケアマネさんが「災害時のケアプラン」として計画づくりに参加する仕組みもできていて、その手間に対して、ひとりあたり数千円程度の費用が自治体から支払われる形も広がっているそうです。

つまり、ボランティアじゃない。

普段のケアプランと、災害時のケアプランを、同じ人が作る流れになろうとしているんですね。

まだ、やっている自治体とやっていない自治体があるのは事実です。

ただ、ボクはこれ、正しい方向だと思っています。

災害の時だけ知らない人が来るより、いつもの支援者が「この人はこうです」と書いておく方が、本人にとってはずっと安心じゃないですか。

「市町村がやるもんでしょ」と思っている人もいれば、「ここはちゃんとやらなきゃ」と思っている人もいる。

相談支援でも、ケアマネさんでも、たぶん同じです。

ボクは今回、自分がどっち側にいたかを見つめ直しました。
♯後回し側でした

今日の一歩

支援者と本人が学校を指さし災害時の避難先を確認しているイラスト

大きな話をしましたけど、一歩は小さくていいと思っています。

ご本人・ご家族の方は。

災害の時、どこに、誰と逃げるのか。一回、口に出してみてください。

「決まっていない」が分かるだけでも、大きな一歩です。

支援者の方は。

次のモニタリングで、質問を1つだけ足してみてください。

「災害の時、どこに逃げますか??」

この1問が、個別避難計画の最初の1行になります。

ボクも次の面談から、この1問を足していきます。

みなさんの担当している方の避難先、すぐに言えますでしょうか。

ではまたー。

この話は、Voicyでも話しています👇

Voicy - 音声プラットフォーム
ちゃんさと「明日がちょっと楽になる福祉ラジオ」/ Voicy - 音声プラットフォーム このチャンネルでは、相談支援専門員・精神保健福祉士のちゃんさとが、現場のリアルと日常から明日がちょっと楽になる視点や制度の使い方をお届けします。

【参考】

  • 内閣府・消防庁「避難行動要支援者名簿及び個別避難計画の作成等に係る取組状況の調査結果」(令和8年3月時点。未作成50市町村=2.9%、作成率2割未満920市町村=52.8%、8割以上253市町村=14.5%)
  • 内閣府 防災情報のページ「避難行動要支援者の避難行動支援に関すること」 
  • 災害対策基本法(2013年改正で名簿作成が義務化、2021年改正で個別避難計画が努力義務化)

naKaraからの補足|相談支援の中で確認しておきたい災害時のこと

個別避難計画というと、「自治体が作る特別な書類」というイメージがあるかもしれません。
しかし、災害時の備えは日頃の相談支援ともつながっています。

たとえば、「災害が起きたらどこへ避難するのか」「一人で避難できるのか」「服薬している薬をどう持ち出すのか」「避難所でどのような配慮が必要なのか」などは、普段の生活状況を知っているからこそ整理できることです。

すべてを一度に決める必要はありません。まずは「災害が起きたとき、どうする?」と本人やご家族と一緒に考えてみることが、備えの第一歩になります。

個別避難計画の対象や具体的な作成方法は自治体によって異なるため、詳しくはお住まいの市区町村の防災・福祉担当窓口などに確認してみましょう。

【naKaraの相談支援について詳しく見る】

この記事を書いた人

ちゃんさと@精神保健福祉士/相談支援専門員

誰かの「どうしたい?」を聞いて15年。
自分の「どうしたい?」は、誰にも聞かれない。
対人援助職のための部屋を開いています(初月無料)。
障害年金・障害福祉はYouTubeで(3.7万人)。
すり減らない働き方の話→ https://chansato.substack.com

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